子供の頃の記憶は年齢を重ねるにつれて曖昧になっていくのが自然ですが、いくつかはいまでも思い出せる記憶が誰にでもあるのではないでしょうか。個人的には、初めて母親が映画に連れて行ってくれた作品が日本映画の『地獄』であったことを覚えています。
もちろんタイトルを覚えていたわけではなく、その映画の一部のシーンが記憶に残っているのです。また、映画館の前に「閻魔大王」のパネルがあったのですが、母親が怖がらせようと思って私をパネルに近づけたものの、まったく驚きませんでした。しかし、映画を見終わった後に同じことをされた時には泣いた記憶があります。
こうしたインパクトのある記憶は60年以上経過してもはっきり覚えているものですが、人間の記憶は曖昧なので、本当の記憶なのか、後で母親から聞かされたことを記憶と勘違いしているのか、その可能性も否定できません。
他にも小学校のときに野球やスキーをやっていたことや、自転車に乗る練習をしたことなども断片的に覚えてはいますが、映画のエピソードほど鮮明ではありません。
しかし、不思議なことに音楽が記憶と結びついていると意外にもはっきり覚えていたり、音楽を聞いて古い記憶が蘇ったりすることは、皆さんも経験しているのではないでしょうか。
ビートルズが来日したときにTV放送された記憶があり、それに関連して祖母がビートルズを知っていることに驚いた記憶も残っています。音楽とは直接関係ありませんが、祖母がプロレス中継を見るたびに、レフェリーのことを相撲の「行司(ぎょうじ)」と呼んでいたことも思い出すことがあります。プロレス中継と祖母の記憶がつながっているのです。
音楽は特に感情を刺激することが多いので、その時の記憶と結びつきやすいのではないでしょうか。個人的には、2010年代に良くない出来事があったときにヒットした「バッド・デイ(ダニエル・パウター)」や「ユア・ビューティフル(ジェームス・ブラント)」は、大好きな曲ですが複雑な気分で聴いてしまいます。
反対に、子供の頃に聴かせる曲には十分注意したほうがいいかもしれません。いくら自分が好きだと言っても、幼児にヘビーメタルを聴かせるのはやりすぎでしょう。将来有名なヘビーメタルのミュージシャンになる可能性はありますが、情緒不安定になったりトラウマになったりする可能性も否定できないからです。
やはり物心がつかない時期には、心が落ち着く安定した曲を聴かせるのが無難だと思います。
しかし、思春期になれば何を聴いていても親にやめさせる権利はありません。それに、否定されればされるほどのめり込んでいくのが青春時代というものです。
ボブ・ディランの曲「時代は変わる(The Times They Are A-Changin')」の歌詞に、以下のような有名な一節があります。
"Don't criticize what you can't understand"
直訳すると「自分が理解できないものを批判するな」という意味になります。曲が発表された60年代は、それまでにない音楽やサブカルチャーが花開いた時代です。現在では気にする人もいない男性の長髪などもその一つでした。
これらは、若者文化を頭ごなしに否定し、やめさせようとした親世代に向けたメッセージです。これは今でも教訓として十分通じると思います。自分と考え方が違う人を否定する文章はSNS上にあふれています。そこで、この一節を知らなかった人はこれを覚えておいて、SNSを発信する前に思い出してみましょう。
批判は相手の考えを理解したうえで行うもので、理解できないからと拒絶し否定するのは、単なる誹謗中傷なのです。

