『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』などはストーリーのパターンがほぼ固定化されているため、いかに斬新な殺害方法で驚かせるかが勝負どころとなります。近年では、こうした手法に加えて常軌を逸したシチュエーションで恐怖を煽るホラー映画も増加しています。『ソウ』はその典型例で、登場人物を強制的にゲームへ参加させるという当時としては画期的な手法が取り入れられました。もっとも、こうしたシリーズも続編を重ねるにつれてゲームの内容を過激にエスカレートさせるしかなくなるという宿命を抱えています。
一方で、『ファンタズム』のように独自のシュールな世界観を持ち、先の読めない展開で人気を博した作品もあります。また、イギリスのホラー作家クライブ・バーカー原作の『ヘルレイザー』も、シリーズ化されてコアなファンを獲得しました。こちらは地獄の門が開く立方体のパズルを軸にしたストーリーや設定に特徴があります。『13日の金曜日』のジェイソンや『エルム街の悪夢』のフレディのように、強烈な個性を持つメインキャラクターの人気が確立されたことも、熱狂的なファンを生んだ大きな要因です。『ヘルレイザー』においても、パズルそのものに加え、頭部に無数の釘を刺した「ピンヘッド」という悪魔的キャラクターが絶大な人気を誇りました。(ちなみに、ホラー小説集『血の本』を手掛けたクライブ・バーカーは、個人的にもお気に入りの作家の一人です)
なお、かつて耳にした記憶がある印象的な作品として、とある村落で毎年行われる奇祭を描いたものもあります。人々が結集して巨人の形を作りねり歩くという不気味なイベントですが、最後には阿鼻叫喚の結末が待ち受けているという、想像するだけで奇妙な雰囲気に包まれたストーリーでした。
これに対して、日本を代表するホラーである怪談は、ストーリー自体はほとんどの人があらかじめ知っており結末も明らかです。それでも昭和の時代には何度も映像化され、一定の人気を博しました。これは、物語の筋書きそのものよりも、演出や独特の雰囲気を楽しむ文化的土壌があったからこそ、何度でも受け入れられたのだと考えられます。
そうした怪談のなかでも、テレビ番組『日本名作怪談劇場 牡丹燈籠』の終盤のシーンは、類を見ない演出で視聴者の心に強いトラウマを刻みました。「夜明けまで家を出てはならない」と言われた主人公が、偽りの夜明けに欺かれて外へ出たものの、実際にはまだ真っ暗闇だったという場面です。それに気づいた瞬間、上から長い髪の女の幽霊が突如として降下してきて顔を合わせるという演出が仕掛けられていました。
定番の『牡丹燈籠』だと思って油断していた視聴者の予想を鮮やかに裏切るアプローチだったからこそ、トラウマ級のインパクトを残すことができたのです。このように、演出次第でマンネリ化したストーリーであっても、十分に新鮮な息吹を吹き込むことができます。
海外でも広く知られる『リング』の貞子も、「テレビ画面の中からはい上がってくる」というそれまでのホラーの常識を覆すアイデアで大ヒットを記録しました。ホラー映画はワンパターンで退屈だと敬遠している人でも、こうした演出の細かな違いに着目すると、新たな恐怖や面白さを発見できるかもしれません。
ホラー映画の歴史
黎明期(1890年代〜1930年代):ジョルジュ・メリエスによる『悪魔の荘園』(1896年)などの初期フレンチ・ホラーを発端とし、その後1930年代にはユニバー・スタジオが『ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』といった古典怪奇映画の黄金期を築きました。
変革期(1960年代〜1970年代):アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960年)や、ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968年)が登場。現実社会の恐怖や残酷さをリアルに描き出し、モダンホラーの基礎が作られました。また『エクソシスト』(1973年)などのオカルトブームも到来しました。
スラッシャー・ブーム(1970年代末〜1980年代):『ハロウィン』(1978年)や『13日の金曜日』(1980年)など、殺人鬼が若者たちを次々と襲うスラッシャー映画やスプラッター映画が量産され、一大ジャンルとなりました。
Jホラーとファウンド・フッテージ(1990年代〜2000年代):『リング』(1998年)や『呪怨』(2000年)などのJホラーが国内外でヒットし、ジワジワと迫る恐怖や怨念の表現が注目されました。また『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)以降、ドキュメンタリー風の映像手法(ファウンド・フッテージ)も流行しました。
多様化とニューウェーブ(2010年代以降):『ソウ』や『死霊館』ユニバースに代表されるシチュエーション・スリラーやエンタメ系ホラーに加え、A24などのスタジオが手掛ける芸術性の高い「アート・ホラー(スマート・ホラー)」など、多様なアプローチの作品が次々と生み出されています。

